活動家に聞いた「社会課題に取り組むプロセス」とは?
幕張の海でゴミを拾い続ける友人 後編
学生時代の友人の渡邊尚紀さんに、環境活動家としての取り組みについて聞いた前編に続いて、後編は、横田が考える「デザインアプローチの8ステップ」について2人でディスカッションしていきます。
特に横田が以前アップした記事、「JEITAのデザインワークショップに参加して分かった『共感』の難しさと『問題探索』の重要性」でも紹介した、「共感」の重要性について聞いていきます。
横田の仮説「デザインアプローチの8つのステップ」とは?
横田 今、私たちデザインセンターは社会課題にデザインアプローチで取り組めないかなって考えていて。私は、「デザインアプローチの8つのステップ」という仮説を持っています。
渡邊 STEP7からSTEP5やSTEP2にも道がつながっているのは、行ったり来たりするということなんですね。よく言われるデザイン思考は6項目ですよね。アイデア、定義があって、プロトタイプもテストもある。デザイン思考との違いは??
横田 前半のSTEP1「探索と理解」やSTEP2「仮説」、最後のSTEP8の「アジャスト」かな。デザイン思考はイノベーションを起こすコンセプトを立てるためのプロセス。この8ステップは社会課題にデザインアプローチを用いるためのプロセスで、要素や順番がデザイン思考と異なる点です。
環境活動家が実践してきた「共感」の集め方とは?
横田 私はこの中でも、STEP3の「共感」が重要と考えていて、共感してもらわないと周りの人の行動につながらないと思っています。
渡邊 僕の中では、共感させるって故意に狙って起こしてきたわけではないんだよね。最近、就活もあって自己分析したんですけど、僕は昭和的な考えを持っていると分かった。古くさいけど、「背中で語る」みたいな。ほかにも「後輩には絶対おごる」とか(笑)。そういう古臭い思考なんです。それが、共感を生んで、結果として活動がうまくいっている気もしています。
横田 背中で語るのはめちゃくちゃ分かる(笑)。でも、単にそれだけとも言い切れないのは、やっぱり発信して「みせている」っていうところですね。
渡邊 「みせる」ってのは、どちらかというとあれですか。魅力の「魅せる」の方ですか(笑)。
横田 そうだね。学生時代から今も、アオカラスの活動は楽しそうだと感じました。
渡邊 共感を集めるといっても、嘘はついてないんだよね。写真を撮る時に、「みんな笑って」とか言ってるわけじゃないし。本当に楽しんでもらうのが一番で、メンバーのみんなにいかに楽しんでもらうかというのが、僕が考えるべきこと。それが結果として周りにも楽しさを伝えて、共感につながっているんじゃないかなと思います。
横田 うんうん。
渡邊 例えば、SUPという、ボードの上でパドルを漕いで進むアクティビティがあって、そのパドルの反対側に網を付けておくだけで、海洋ゴミを拾うことができるんです。周りからしたら、「あいつら遊んでるだけじゃん」と見えるかもしれないけど、実はゴミ集めと遊びを両立しているという。最近は、ビーチクリーンにも遊びを取り入れるというか、もっと軽い感じにして、参加のハードルをさらに下げられないかなって考えてます。
マイクロプラスチックという別の問題が浮上
渡邊 今日はザルも持ってくればよかったな。海とか砂浜には目に見えるゴミだけじゃなくて、実は小さなゴミが混ざってるんですよ。
横田 よく見ると、拾えないくらい小さいプラスチックがたくさん落ちてますね。
渡邊 僕たちが拾っているゴミよりも、もっと小さいプラスチックゴミも問題になっていて、それが5mm以下のマイクロプラスチック(※)と呼ばれるもの。魚や海洋生物が食べてしまうと言われています。プラスチックを魚が食べないようにと思って僕たちがゴミ拾いをしていても、人の手で拾いきれないマイクロプラスチックの課題は解決できていないという……。
横田 手で拾いにくいマイクロプラスチックが、かなり大きな問題になっているってことですね。マイクロプラスチックを含む、海のゴミ問題を解決するために必要なことって何だと思いますか?
渡邊 なんだろうね。タバコって「吸ったら肺が真っ黒になるよ」とか自分の身にリスクがあると分かると「やめよう」って思うじゃん。それくらいインパクト強く伝えられたらいいのかもしれないね。プラスチックゴミのリスクをどこまで伝えられるか。極端に「今後はもう、魚食えなくなるよ」って、そのくらいインパクトを与えるのもいいのかもしれない。海ゴミ問題に注目が集まるなら、そういう悪役を買って出てもいいなって思っています。
後編のまとめ「個人の想いを起点に社会課題に取り組む活動を起こすために」
気づき1:今回訪れた幕張の海岸は想像していたよりもきれいだった
気づき2:渡邊さんの取り組みや工夫はデザインアプローチとも重なる
気づき3:マイクロプラスチックという別の問題も発生している
気づき1:今回訪れた幕張の海岸は想像していたよりもきれいだった
渡邊さんの話を聞きながらではありますが、横田にとって、今回が初めてのクリーンアップ活動でした。正直なところ、参加するまでは幕張の海岸はゴミが散乱していて汚いというイメージがありましたが、思ったよりもきれいで、渡邊さん曰く「ほかの環境団体も増えて最近は海岸がきれいになってきた」とのこと。幕張の海岸でのゴミ拾いは、着実に成果を出しているようです。
気づき2:渡邊さんの取り組みや工夫はデザインアプローチとも重なる
海洋ゴミ問題について、改めて調べてみました。日本財団の意識調査(※)のアンケート結果によると、「ゴミを減らす活動に参加したい」という意向は約8割(n=1400)あるものの、「近隣で活動がない+知らない」が約6割(n=1152)となっています。海ゴミに関心を持っている人は多い一方で、どのようにアクションしたらいいか分からないという人が多そうです。
※引用 日本財団 海と日本PROJECT, 海洋ごみに関する意識調査 調査結果(2018)
https://uminohi.jp/wp-content/uploads/2018/11/【海洋ごみ】意識調査調査結果.pdf, (参照2023-5-31)
渡邊さんの取り組みや工夫は、ゴミを減らす活動に興味を持っている人々に届いていると感じます。それは、渡邊さんの活動の広がりや、幕張の海岸がきれいになっていることからも分かります。情報発信や楽しく魅せる工夫などを駆使することで参加予備軍までしっかり届き、実際に参加を促している渡邊さんのアプローチは、デザインアプローチとも重なる部分が多いと感じました。そこで、横田の8ステップに当てはめて分析してみました。
やはり特徴的だったのは、STEP3「共感」における、「自分も活動する中で、社会課題に対する想いを背中で語り、活動に共感してもらう」ところ。自ら活動して「背中で語る」ことで多くの共感を集め、さらに「楽しく活動している様子を発信して魅せる」ことや、STEP5「活動に楽しく参加してもらう工夫をする」を組み合わせることで、さらなる共感を呼んでいます。参加者視点を重視した共感を自然と集めるスマートな手法は、STEP1やSTEP5を行き来しながら導いたのではないでしょうか。
気づき3:マイクロプラスチックという別の問題も発生している
今回、一緒にゴミを拾っていると、砂の中にも小さなゴミや、さらに小さいマイクロプラスチックがたくさん混じっていることが分かりました。マイクロプラスチックもまた社会課題で、海ゴミ問題もその他の社会課題と同様に複雑で、やはり一筋縄では解決できないようです。
そこで次は、海洋プラスチックゴミについてもっと知りたいと思い、「海洋生分解性プラスチック」の研究者である群馬大学の粕谷健一教授に話を聞きに行きました。深海におけるゴミ問題や、研究領域でもデザイン思考の導入が進んでいると聞いて驚きました。
次回もお楽しみに!