ゴミはなくならない、でも「枯らす」ことはできる - 幕張の海でゴミを拾い続ける友人 前編
社会課題に取り組む人にリアルな話を聞いてみた
「実は砂浜にあるゴミって、海から流れ着いたゴミじゃなくて、約8割が内陸からやってきたゴミなんですよ。河川を通って、海を経由して流れ着いたゴミがほとんどで」
そう話してくれたのは、大学時代の友人で、4月から社会人になったばかりの渡邊尚紀さん。大学生のときに「aokaras(アオカラス)」という環境団体を立ち上げた渡邊さんとは、一緒に大学初の音楽系サークル合同新歓イベントを企画し開催したこともあります。
今回は、横田の仮説「デザインアプローチの8ステップ」(詳細はこちら)のブラッシュアップ&実践を目指して、社会課題の解決に向けて活動している誰かに話を聞きたいと思っていたところ、ふと、学生時代の友人である渡邊さんを思い出したというわけです。ビーチクリーンなどを実践してきた渡邊さんに久しぶりに会って、千葉・幕張の海岸でゴミを拾いながら改めて活動について聞いてみました。
ビーチのゴミを拾うアオカラスという活動とは?
横田 いきなりですが、アオカラスのビーチクリーン活動で、工夫してきたことってありますか?
渡邊 ただゴミ拾いをやると言っても参加者って集まらないんですよ。持続力を付けるために、「自然やフィールドを生かしたアクティビティをやるような団体だよ」ってコミュニケーションをしていました。
横田 なるほど。素敵なアプローチだなと活動をSNSで見ていました!海ごみ問題って、解決しようと思うと難しい問題だと思います。そこに対して、まず想いを大きく示して共感してもらえるようにしている。あと、継続的に活動が続くように組織体制をつくっていますよね。
渡邊 ありがとうございます。うれしいな(笑)。
横田 ガチ褒めです(笑)。
デジタルネイティブ世代ならではのイマドキな運営方法
横田 ほかにも、海ごみ問題に関するデスクリサーチのまとめも発信しているじゃないですか。そういった発信活動に至ったきっかけってなんですか?
渡邊 もともと、アオカラスを立ち上げる時に、部署のようなものをつくりました。部署の中にもちゃんと名前が付いていて、その中に「ケイハツジカン」っていうカタカナ表記の部署があるんですけど、そこの子たちが情報発信の担当です。あと、広報担当のメンバーにも、一緒にSNSを動かしてもらっています。
活動で難しかったのは「お金のところ」
横田 組織にすることで、役割分担ができて、活動がうまく回ってるという印象です。活動を進めるにあたって、一番困難だったことって何ですか?
渡邊 資本的なところですかね。お金のところ。ただ、メンバーにはお金のことを気にしてもらいたくなかったんで、活動資金は僕が全額負担してます。といっても、何でもかんでもOKしてお金を使うんじゃなくて、メンバーから、「こういう狙いがあって、こういうものが得られそうか」というしっかりした提案書を出してもらって、それで活動資金を出していましたね。「お金は気にするな」「お金は何とかするから」って。いやぁ投資でしたね。
横田 その投資に対するリターンはどうでしたか?
渡邊 うまくいってるんじゃないですかね。彼ら彼女らにまずは楽しんでいただいて、僕みたいなこういう考えに行き着いてくれれば。あくまでもきっかけの提供者っていうビジョンが僕はあるんです。「0→1」をこっちがやったら、多分何も変わらない。ゴミ拾い活動とかクリーンアップ活動って、やってもそこで完結して終わっちゃうんですよ。やり方だったり、きっかけだったりをどんどん広げていくほうが意味がある。「0→1」をつくるんじゃなくて、「0から0.5ぐらいまで」をつくっておいて、残りの0.5を自分たちで1にできるような方々を、周りにどんどん増やしてくっていうのが狙いです。
横田 想いや活動自体を伝播させる必要があるって気づいたきっかけは?
渡邊 最初は個人でゴミ拾い活動をしていたんですけど、僕がやっても拾える限界がありました。ただ、そういう活動をやっていると、人が集まってきて、一緒に拾ってくれたりする。ちびっことか、お年寄りとかがいらっしゃるのを見て、「ああこれなんだ」「活動し続けて見せることで、影響を与えるんだ」と思って。個人完結よりも周りに影響を与えるような、かつ、エントリーポイントが簡単であれば、いろんな人が入ってこれると考え始めたのがきっかけですね。
横田 海ゴミ問題という大きくて複雑な問題を解決するためには、渡邊さんみたいなアクションをする人をもっと増やしていく必要があると思っています。熱意を持ってすぐにアクションできる人が増えるといいんですけどね。
渡邊 ちびっこ相手や地域団体向けに、時々、講演会をやったりするんです。その時によく言うのが、「お魚おいしい。お魚ずっと食べたいでしょ」って。魚好きなんで、これからも、ずっとうまい魚食っていきたいっていう。
横田 確かに。それは私も同意です。なるほど、渡邊さんがやってきたエントリーポイントを簡単にするというのは、講演会などでの共感を引き出すコミュニケーションでもあるんですね。
活動にかける渡邊さんの想いは?
渡邊 そもそも、僕の人生の目標は海賊王なんで。
横田 ほう! 理由を聞いてもいいですか。
渡邊 賊行為を働くという意味ではないんですけど。海はゴミも含めて、やっぱり価値があるんですよね。そういった価値をもっと奪い返していこうというか、価値があるんだから、どんどん使ってやろうっていう意味で海賊って言葉を使って、それのトップになってやろうということです。
横田 めっちゃ素敵。
渡邊 ゴールはゴミを出さないことなんです。でもゴミってどうしても出るものだから、僕らの団体は「ゴミをなくすことは不可能」と思ってて。だから、ワードとしては「枯らす」っていう言葉を使ってる。さらに、きれいにしていく意味で、「青くする」と言ってます。そこで、ゴミを枯らして、青くしていくっていうところから、アオカラスっていう名前にしました。でも、名付けたきっかけはカラスを見た時かもね。
横田 そうなんだ。
渡邊 カラスって、ゴミを漁ってるじゃないですか。あれって、見方を変えたら、まだ価値があるものだから食ってるとも言えます。最終的に、僕らは目立たなくていいんですよ。黒子でいいから、アシストしていければいい。それで出た結果が、俺も喜べる内容だったら、そこに文句はないと思っています。
前編のまとめ「0→0.5を用意して人を巻き込む」
幕張の海岸でクリーンアップ活動をしながら話を聞いて、渡邊さんの海ごみ問題に対する想いや、ただ活動するだけでなく活動の効果を最大化するためにいろいろ試行錯誤をする姿に、気骨や工夫を感じました。
特に、想いを伝播していくために、「0→0.5」を用意して「0.5→1」をメンバーが取り組めるようにすることは、問題を自分事化したりアントレプレナーシップの醸成につながりそうです。問題を自分事化してもらうことは活動の存続や、スケールしていくために重要だと取材を振り返って思いました。アオカラスはその実践例だと思います。
前編は渡邊さんの活動を中心に伺いました。後編は横田が考える「デザインアプローチの8ステップ」について、渡邊さんとのディスカッションをお届けします。
ぜひ、お楽しみに!