見出し画像

デザインアドボケート横田が富士通のデザインセンター長に聞いた、「なぜ社会課題にデザインアプローチ?」

はじめに

こんにちは、デザインアドボケートの横田です!

UIデザイナーとして富士通株式会社に入社後、2年目でポスティングを経てデザインアドボケートになりました。学生時代に海外のデザインワークショップに参加した経験から、デザインの力で社会をより良くすることにもっと活かせないかと思い、活動をしています。

「デザインアドボケートチャンネル」は、横田が、デザインアプローチで社会課題に取り組むことについて、さまざまな専門家や実践者と対談し、その可能性を探っていきます。1回目は、最近、「社会課題×デザインアプローチ」をテーマに掲げている富士通デザインセンター長の宇田さんに「なぜ、社会課題にデザインアプローチなのか?」を聞いてみました。


もし、水道の水が飲めなくなったら?

横田:そもそも、「なぜ社会課題に取り組まなければならないのか」ということで、最近、社会課題について調べる中で、「未来の年表 」(著:河合雅司)を読みました。人口減少が進む日本でこれから何が起こるかをまとめた本なのですが、怖い本 でした…。その中でもヤバいなと思ったのが、水道事業における問題群です。整備が追い付かないことが予測されており、安全に水道水を飲めない地域が出てきそうです。私の目標は、「幸せに長生きする」なので、長生きしたところで水が安全に飲めない状況で生きなきゃいけないのはいやかもと思いました。

人口減少が水道事業に与える影響

宇田:水道だけでなく、橋や鉄道もそうかもしれないですね。人口増加を想定してインフラを引いているので、人口減少するとメンテナンスができない。今の日本の社会システムは人口増加を見据えて設計されましたが、これからは人口減少を想定した社会システムを作る必要があると考えます。一方で世界に目を向けると水・空気・魚などといった地球規模で共有している資源を食いつぶしている状況です。ようやく、これはまずいぞと世界的に気づき、国際目標となったのがSDGsですね。

社会課題が解決しにくい理由は?

横田:社会課題って目の前にたくさんあるのになかなか解決されないですよね。水道事業の話でいうと富士通もソリューションを持っています。技術で何とかならないんでしょうか?

宇田:問題は、それらが複雑に絡み合っていることで、どこから手を付ければいいのかわからないことですね。一見シンプルに見える社会課題でも、人口減少だけでなく、地球温暖化もあるし、サプライチェーンの分断など、いろんな大きな問題が相互に絡み合ってますから。

横田:水道事業の場合だと、人口減少によるインフラ維持のための技術職員不足といった課題があります。技術者不足は、人口減少に加えて、その職の社会的重要性が十分に理解されていない感じもしますね。

宇田複雑で大きな問題を一度に解決することは無理なので、手の届くところから少しずつ取り組むことが重要だと考えます。例えば、半径150mの地域のまちづくりを変えるとか。もうひとつ、意見交換をするにしても、一つの領域の専門家だけで課題解決に取り掛かるのではなく、人口減少や環境問題、経済問題など、さまざまな専門家が集まる必要があると実感しています。

横田「みんなで取り組まなければならない」という意識が必要ですね。

宇田:そう思います。大きな企業でも、すべての分野を網羅できるわけではありません。得意分野を組み合わせることで部分的にでも寄与して、他の企業や人々との連携によって大きなサービスを提供するという考え方に切り替える必要があると考えています。

社会課題にデザインアプローチで取り組むって何?

横田:宇田さんというか富士通デザインセンターは、最近、「社会課題×デザインアプローチ」を目標にしています。デザインアプローチの有用性は、多数のステークホルダーを巻き込みながら、共通の利益を生む解決策を作り出すことができるからだと私は考えています。今日は、社会課題におけるデザインアプローチのプロセスの仮説として、こんな資料を作ってきました。STEP1〜8まであります。

社会課題に対するデザインアプローチの横田の仮説

STEP1 探索と理解:ステークホルダーと外的環境を探索し、問題に対する理解を深める
STEP2 仮説:探索した内容を分析し、解決に必要な仮説を立てる
STEP3 共感:仮説をステークホルダーと共有し、解決に向けた共感と支持を得る
STEP4 課題定義:共感と支持を得たステークホルダーと取り組むべき課題を定義する
STEP5 アイディア出し:課題の解決アイディアを仮説に基づいて出す
STEP6 プロトタイプ:短期間で効率的に解決アイディアを試すための試作品を作る
STEP7 テスト:プロトタイプを試すことで、社会実装するときの解決の角度を高める
(※STEP2~7は行き来する)
STEP8 アジャスト:アイディアを市場や環境に適応させる

宇田:先ほど、現代の社会課題は昔よりも複雑になり、課題解決がグローバルレベルになっているという話をしました。そこで僕が大切だと考えているのは2つのポイントで、1つが、さまざまな背景を持つ人々が多角的に課題を見ること。2つ目が、複雑になったことで因果関係が見えにくい課題に対して、課題を定義し、プロトタイプを作り、評価しながら進むこと。この2つの点で、デザインアプローチが有効だと思っています。

横田:中でも、重要なプロセスはどこだと思いますか?

宇田:横田さんの仮説の中のプロセスで言えば、STEP4の課題定義と、あとはやっぱりSTEP1の探索と理解とか、STEP3の共感ですね。課題定義は、テクノロジー重視の傾向から脱却して取り組むべき課題を選ぶこと。日本がこれまで大量生産で成長をしてきた技術立国であるという背景があるため、これから何に取り組むべきかを再定義する必要があると考えています。探索と理解とか共感は、よくサイロの問題といいますよね。いろんな人とのコラボレーションをやったことないし慣れていないから、どう振る舞えばいいか、体も頭も心も動かない。クローズからオープンな世界に進むには、コラボレーションも欠かせないと思います。


私たちはどのように取り組むべきか?

横田:デザインアプローチで社会課題に取り組むにあたっての私からの素朴な疑問として、問題ベースで動くにはどうしたらいいんでしょうか。というのも、普段働いていると仕事は事業ベースなので、問題を探索した方が良いと頭では分かっていても、難しいなあという感じもします。

宇田:今年、JEITA(電子情報技術産業協会)のデザイン委員会の委員長を行う中で、企業を超えたデザインのクロスファンクショナルチームを作り、解くべき社会課題を定義しプロトタイプを作り価値検証するという取り組みを進めています。先週は、経済産業省の「これからのデザイン政策を考える研究会」にオブザーバーとして参加したのですが、弁護士や教育者などさまざまなバックグラウンドを持つ人が研究会に参加してオープンな議論が行われていていいなと思いました。よく言われる、コラボレーションとかオープン化というのも、デザインアプローチの強みだと実感しています。
先日、 JEITAのイベントでデンマークデザインセンターCEOのクリスチャン・ベイソンさんに「今、日本のデザインのリーダーだったら何しますか?」と聞いたら、彼は「日本らしさっていう部分に対してもう一回着目するよ」と言っていました。1月にCESに行ったときに訪れたサンフランシスコデザインファームでも同じようなことを言われましたね。

クリスチャン・ベイソン氏(左)と宇田哲也氏(右)

横田社会課題×デザインアプローチに加えて、日本らしさの模索というのも重要ということですね。

宇田:そうですね。あとは、横田さんのデザインアドボケートという役割も、情報発信だけじゃなくて、リーダーシップとか、共感を得ることを含めてアドボケートです。横田さんがいろんなところで、心ある人を引っ張ってくることも重要になってくるんじゃないでしょうか。

横田:がんばります。人を巻き込むのはなかなか難しい課題で、いかにアドボケートして、共感を広げていくかが大切だと思っています。

終わった後に横田が思ったこと

改めて、社会課題の深刻さと解決の難しさを感じました。対談を経て、社会課題は複雑に絡み合っており多角的な視点で取り組む必要があるため、コラボレーションという観点で、デザインアプローチの仮説が有効そうであることも分かってきました。それに加えて、日本らしさというのも大きなテーマだと気づきました。日本は島国のため閉鎖性を好む文化的背景もあり、オープンに取り組む海外のアプローチをそのまま取り入れても上手く行かなそうです。技術立国としてのテクノロジーと日本ならではの伝統的な文化やアプローチを社会課題解決に活かしたいと思ったので、そのバランスの取れるところを探っていきます。

これからデザインアドボケートとして以下のことをやっていきます。
1 デザインアプローチの各ステップにおけるコラボレーションを円滑に行うための施策を考える
2 世界に対しオープンに情報発信してリーダーシップを発揮する
3 日本の強み、日本らしさについてリサーチを進める

デザインアドボケート横田がこれからやっていくこと

今後は、すでに社会課題に取り組んでいる組織や専門家、デザインアプローチで課題解決する実践者に話を聞きに行きます。取材から得た気づきや仮説は、実際のプロジェクトに反映し、社会課題の課題設定やデザインアプローチの精度を高めていきます。

次回もぜひ楽しみにしていてください!