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はじまりのデザイン ~伝統の世界から、新たな価値を生むには?~

私たち、富士通デザインセンターは社会の課題を、等身大に。社会の明日を、あなたとわたしで。」というミッションを掲げ、課題を捉え直し問いを立てる「はじまりのデザイン」、問いに対して共にアプローチする「みんなのデザイン」、アウトプットに落とし込む「かたちのデザイン」の3つのデザインを通じ、さまざまな地域や企業に伴走しながら、より良い社会づくりを目指しています。人に着目することで、そもそも解く課題は何なのか、課題の「はじまり」から紐解き、立場を超えて人とつながりあって考えていきます。



伝統の世界に新たな風を吹き込む

今回、ご紹介するのは、明治22年創業の老舗ながら、日本酒業界を盛り上げるため次々と新しいチャレンジを続けている徳島県三好市の三芳菊酒造株式会社とのプロジェクト。

本プロジェクトが目指したのは、地域の人々や日本酒ファンを巻き込んだ新しいお酒づくりのあり方です。古くからの慣習を大切にする日本酒づくりにおいて、みんなでつくるお酒づくりをどのように始めたのか。
キーパーソンである、三芳菊酒造の代表・馬宮亮一郎さん、富士通Japan徳島支社の福島賢太郎、富士通デザインセンターの飯嶋亮平、の3名にお話を伺いながら、デザインの眼鏡で見つめてみます。



なぜ、 “日本酒”に取り組み始めたのか?

そもそものはじまりは、福島が、地元・徳島の日本酒の現状に課題意識を持ったことでした。今は残念ながら廃業してしまったそうですが、福島の実家はもともと、300年を超える酒蔵を営んでいました。少年時代、酒蔵の中で遊びまわっていた記憶は鮮明に残っており、いつかは日本酒に関わりたいと思っていたそうです。その思いが軸となって活動を突き動かしていくことになります。

徳島、眉山の風景


そこへ突如訪れた、徳島支社への異動が転機となり、徳島県が抱える課題に向き合うことができるチャンスが巡ってきます。そうして、早速プロジェクトを立ち上げ、まずは徳島の日本酒の現状についてリサーチ。すると、徳島県は全国で日本酒の製造量が16年連続最下位の県(国税庁調べ)である、という事実を知って「徳島の地酒をもっと地元の人に飲んでもらい、県内の酒蔵を元気にできないか」と考えます。


酒蔵のフィールドワーク


フィールドワークを経て辿り着いた最初の仮説が「流通の課題」。
「どうしたら、県内に徳島産の日本酒を流通させられるだろうか」
という問いを立て、さらに調査を続けていきます。


課題を捉え直すことで生まれたアイデア


次第に、「徳島県内の流通の問題を解決することが、本当に作り手にとって嬉しいことなのか?」そんな違和感を持ちはじめます。というのも、徳島の酒蔵の中には、「県内で扱ってもらうよりも、首都圏を中心とした県外や海外での知名度を上げて、そこに販路を見出していきたい」と考えているところも少なくないとわかってきたからです。

徳島の日本酒を盛り上げるために必要なのは、むしろ酒蔵の存在を世の中に知ってもらうことなのかもしれない。

そんな時、社内のネットワークを通じて活動を知り、ぜひ一緒に取り組みたいと名乗りを上げたのが、富士通デザインセンターのデザイナーたちでした。デザイナーが加わることで、仮説は、新たな問いへと発展していきます。

「どうしたら、徳島の酒蔵が持つ、個性や魅力を多くの人に伝え、日本中、世界中へと販路を拡大できるのか」

それを解く糸口となったのは、近年さまざまなビジネスに取り入れられている「消費者参加型」というモデルでした。本プロジェクトに関わる一人、富士通デザインセンターの飯嶋は話します。

飯嶋:「クラウドファンディングによる商品開発などもそうですが、自ら資金やアイデアを提供した商品には、誰しも特別な思いを抱くもの。もし、飲み手となる人たちに、酒づくりに何らかの形で参加してもらい、完成までの工程を一緒に見守ることができたら、それは飲み手にとって、思い入れや愛着の強い、特別なお酒になるはず。その一連の工程をオープンにし、広く発信すれば、販売前から注目を集めることができ、多くの予約購入を見込めるだけでなく、日本酒好きではない人にも、興味を持ってもらえるきっかけになるかもしれません。こうした発想から、“みんなで作る”というコンセプトが生まれました。」



課題の捉え直しと問い立ての関係


プロジェクトの要となったのは、同じ意志を持つパートナー

過程をオープンにし、多くの人に参加してもらう、新しい日本酒づくり。このプロジェクトのパートナーとして、頭に真っ先に思い浮かんだのが、徳島県三好市で老舗の酒蔵を営む、三芳菊酒造の社長・馬宮さんでした。

三芳菊酒造のみなさん


三芳菊酒造は、デザイン性の高いラベルデザインや、日本酒のイメージを覆すようなフルーティで甘いお酒を売るなど、独自の路線を突き進む酒蔵です。馬宮さんは、元々は酒蔵を継ぐつもりはなく、東京の大学に進学し、酒づくりとはまったく異なる道に進もうとしていましたが、25歳で帰郷し、家業を継いだユニークなエピソードをお持ちの方。

苦境から脱するためにもがき続けた当時の心境を、馬宮さんはこう振り返ります。

馬宮:「知名度がなく、もうどうしようもない状況でした。それを打開するには、振り切ったことをしないといけない。だから、日本酒が嫌いな人でも飲めるような味の日本酒をつくろうと決め、レコードをジャケ買いするような感覚で選べる斬新なラベルをつくることにしたんです。お客さんが興味を持って、楽しく飲んでくれることを追求し続けました。」


個性的で目をひく三芳菊酒造が発売する日本酒のラベル


そんな馬宮さんを、プロジェクトに誘った理由は2つありました。1つは、非常にオープンマインドで、日本業界を盛り上げるために、積極的に新しい方法を取り入れている馬宮さんのお人柄。そしてもう1つは、三芳菊酒造が取り組んでいる音楽による『加振醸造』です。加振醸造とは、醸造工程で振動を加えることで、味に変化をもたらす酒づくりの方法。三芳菊酒造はただ振動を加えるだけでなく、その振動の発信源に音楽を用いていました。この酒造りのプロセス自体が面白く、お酒の知識がなくても『どんな音楽を聴かせたいか』ということなら、気軽にたくさんの人の意見を取り入れられるはず。醸造時に流す音楽を消費者に選んでもらえたら、“みんなでつくる日本酒”が実現できるのではと考えたのです。

打診を受けた馬宮さんは「面白そうですね」と二つ返事で快諾。製造工程をオープンにする、という試みにも抵抗はなかったと話します。

馬宮:「これまでも、酒蔵見学などの試みはありましたが、それだけではなかなか酒蔵の閉ざされたイメージを払拭できないと感じていました。『酒蔵は見せない方が神秘的だ』という考えもあると思いますが、今の時代、たとえば農家さんも生産者の顔を見せて、透明性を高めている。酒蔵ももっとオープンにしていくことで、特に若い人に、興味を持ってもらえるきっかけになるではないかと思いました。」


酒造りをオープンにすることで、「みんなでつくる」を実現

そうして始まったのが、消費者参加型でつくる加振酒「Sake Wave Fes」醸造プロジェクト。まず、ジャンルの異なる4曲の楽曲を三芳菊酒造のSNSで公開し、フォロワーに好きな曲を投票してもらいます。得票率に応じて各楽曲を再生して酒づくりを行い、麴造りや仲仕込み、加振、ラベルづくりなどの過程を公開し、プロセスをオープン化しました。


インスタグラムで楽曲の投票を行った楽曲


馬宮さんからは、「加振醸造」したものと、そうでないものを飲み比べるセット販売をするのはどうか、というアイデアが挙がり、日本酒を楽しむ体験がさらに広がりを見せていきます。

馬宮:「おいしい日本酒ができても、加振の効果がわからないと意味がないですし、味が違う2本のお酒があることによって、『私はこっちの方が好き』といったコミュニケーションが生まれるのではないかと思いました。ただ変わったつくり方をしたお酒というだけではなく、飲んだ後にも何かが生まれるものにしたかった。


さらに、消費者の参加意識を高めるため、情報発信にも注力。醸造過程の動画や写真を撮影し、進捗状況やプロジェクトに対する想いを発信し続けました。その効果は着実に現れ始めます。


消費者参加型の新しい日本酒づくり

飯嶋:「お酒を飲んで味わう以外に、どんなことに興味を持ち、どんなことに価値を感じるのか、リサーチや投稿への反応を通して、消費者のニーズを汲んでコミュニケーションをとっていきました。結果として、プロジェクト後にフォロワーが18%ほど増えたんです。それからも徐々に増え続けています。オープンで、なおかつ自分たちと一緒に何かおもしろいことをやろうとしてくれている酒蔵だというイメージを持ってくれたのかなと思います。」



誰もが価値創造に参加できる余白につながる


伝統文化を絶やさないために、時代に合わせた変化を


そうして完成した「Sake Wave Fes」。2023年4月には、お披露目イベントが開かれ、多くの三芳菊酒造ファン、日本酒ファンが集まりました。

Sake Wave Fesの様子

「徳島の日本酒をなんとかしたい」という、福島の思いが発端となったプロジェクトは、地元の酒蔵、三芳菊酒造、東京の富士通デザインセンターのメンバーへとつながっていき、たくさんの消費者を巻き込みながら、少しずつ広がりつつあります。ですが、これはまだまだファーストステップ。

福島:『Sake Wave Fes』のプロジェクトも、今後どんどん拡大していきたいですが、もっと多くの酒蔵さんともコラボレーショしていきたいと考えています。そのためには今回のケースを良い例として、広く展開できるような方法を考えていきたいですね。」

一方、馬宮さんも、今回のコラボレーションで、新たな可能性を見出したと語ります。

馬宮:「日本酒は、これまで積み上げてきたものを守ってつくるものです。なので、製造プロセスを解放するという新しい挑戦はなかなか思いつきにくい。だからこそ、全く違うバックグラウンドの業種の方とともにものづくりをすることに意味があると感じます。」

意志ある人同士でつながり、共創すること

新しい発想やテクノロジーを取り入れること。今回の取り組みから、昔ながらのやり方や常識にとらわれず、新しい価値を生むために重要なポイントが見えてきました。徳島の日本酒が、日本から世界へと広がっていくまでのストーリーは、さまざまな業界や地域が抱える課題を解決するための、1つの道標になるかもしれません。

ともにつくる仲間を募集中

Sake Wave Fesのプロジェクトはまだ始まったばかり。これからもより多くの人とともに新しい日本酒づくりに取り組んでいきたいと考えています。もしご興味のある方は、お気軽にご連絡ださい。
私たちは、これからも、デザインの力を活用し、より良い社会に向けて、アクションしていける仲間を探して、実践を通して学び、社会へと開いていきます。


ACTION NOTE

地域 : 徳島県
実施期間:2022年~
Co-Design Team:
 三芳菊酒造 代表 馬宮 亮一郎
 富士通Japan 福島 賢太郎
 富士通デザインセンター 飯嶋 亮平 山岡 鉄也 早川 裕彦 木内 美菜子
 中村 夏子 木村 裕子  稲垣 潤  
Challenge:地方都市の地場産業の活性化
 製造工程をオープンにすることによる「みんなでつくる」日本酒の
 新しい価値の創出
関連URL:
三芳菊インスタグラム
SakeWave:三芳菊 SakeWaveFes 2本セット
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SakeWaveFes_Flyer.pdf (46.9MB)


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