省庁を超えた若手中心チームが「政策デザイン」を実践中
政策づくりにデザインアプローチを取り入れる「JAPAN+D」 前編
こんにちは、デザインアドボケートの横田です。
前回の群馬大学の粕谷健一教授との対話の中で、社会課題解決における技術は開発しても普及までに政策や法規制等も整備していく必要があると分かりました。
そこで、政策や法規制づくりに興味を持って調べていたところ、政策づくりにデザインアプローチを取り入れる「JAPAN+D」という取り組みを知りました。
経済産業省を中心に2021年6月に立ち上がったこのプロジェクトのメンバーは、さまざまな省庁の人たちが所属を超えて活動を始めているようです。
今回はJAPAN+Dの方々をゲストに、これまであまり知る機会がなかった政策づくりや、デザインアプローチを取り入れることの狙いなどについて、聞いてみました!
4人相手に話すという横田初の多人数トークに挑戦
横田 デザインアドボケートの横田奈々です。本日は、JAPAN+Dのみなさんにお越しいただいています。
まずはアイスブレイクということで、みなさんが政策において、「これまでのつくり方じゃ無理だ」とか、「デザインアプローチを用いたい!」と思った、そんなエピソードはありますか?
水口 アイスブレイクにしては、いきなり難しい質問ですね(笑)。
例えば今、私が所属している経済産業省では、働きながら介護しているビジネスケアラーをサポートする施策の一環で、介護を「個人の課題」から「みんなの話題」に転換する「OPEN CARE PROJECT」を推進中で、私はその担当をしています。実際に介護している人たちが何に困って、どういうことを感じているのか。人にフォーカスして行動を掘り下げていくという意味では、デザインアプローチが有効な領域だと思っています。
水口 ほかにも、例えば補助金もデザインアプローチが適用しやすい領域ですね。補助金の申請はとても複雑なプロセスになっていまして、申請の仕組みの改善を考えていかないといけないと思っています。
平山 私は、「デザインアプローチじゃないと無理だ」と思った経験はありませんが、デザインアプローチがこの分野に有効そうという話をすると、例えば、情報発信において、行政の発信はあまりラブレター的ではないと感じています。自分が言いたいことを言うだけでは何も伝わらないと思うので、相手が読みたくなるようラッピングをするのか、届け方を変えるのかなど、デザインアプローチを取り入れることで、より良くなると感じています。
私たち「JAPAN+D」の「+D」の部分は、デザインアプローチを導入することで、新しい方法などを柔軟にどんどん取り入れて、1つ2つ、より良くできないかという意味を込めています。
横田 JAPAN+Dという名称は、プランAでもBでもなくて、Dという新しい選択肢という意味だと伺い、素敵だなと思っていました。
ここで改めて、JAPAN+Dについてご紹介いただければと思います!
デザインアプローチでつながったチームが「JAPAN+D」
沼本 JAPAN+Dは、デザインアプローチという手法に興味を持っているメンバーが省庁を超えて集まって、政策づくりなどに取り込めないかを模索しているプロジェクトです。ミッションは、「日本の行政にデザインアプローチを取り入れ、ひとに寄り添うやさしい政策を実現します」で、「政策づくり」「組織づくり」「仲間づくり」が活動の3本柱です。
水口 政策づくりでは、人に寄り添う政策を実現するため、政策立案プロセスへのデザインアプローチ導入にチャレンジしています。JAPAN+Dは、基本的に公務員で構成していますが、その周りにコミュニティとして、さまざまな人たちに参画してもらっています。コミュニティとしては30人くらいで、その中で中心的なメンバーは10名ぐらいです。
海老原 JAPAN+Dのメンバーはそれぞれ、所属も年次も異なります。年次でいうと、1年目から企業で言う執行役のような幹部まで幅広いですね。肩書きや、今やっている通常業務ではなく、「デザインアプローチでこういうことをやりたいよね」というメンバーが集まっています。
水口 これまでに、法務省の「HOUMU MADEプロジェクト」や経済産業省の金属課、経済産業省のヘルスケア産業課などに対するデザインアプローチ導入の伴走支援に取り組んできました。
こうした相談は、例えば、ランチタイムにコンビニに行った時に、「JAPAN+Dって何?」と質問されて説明すると、「だったら、ちょっと相談に乗ってよ」みたいなところから始まっていますね。メンバーそれぞれがさまざまな接点から依頼を受けています。
政策における日本らしさとは?
横田 JAPAN+Dのウェブサイトにあった政策デザインの海外事例調査(※)があり、拝見しました。私は、メーカーのインハウスデザイナーとして、「日本らしさってなんだろう?」「日本のデザイナーの特徴ってなんだろう?」と日々、考えています。日本における政策デザインが、どういう特徴のあるものになりそうか、イメージがあれば教えて下さい。
沼本 日本の政策デザインは、まだ海外レベルには届いていない現状がある一方で、日本人はもともと、調和やビジネスの「3方よし」みたいな考え方を持っていると思います。私はこれがデザインアプローチに近いものだと思っていて、今後はそういった、自分たちの中に眠っている感性や日本らしいデザインアプローチを言語化することにもチャレンジしたいですね。きちんと伝わる言語に整理するのが大事だと思っています。
海老原 未来を空想して、より良いものにしていく。そのあたりの能力を少しずつでも言語化していくことができれば、共創もしやすくなっていくと思います。言語化という意味では、海外だと小学校などで、自分が大好きなものをみんなの前で説明する「show & tell」という授業がありますが、日本の教育においてはそういった機会は少ないですよね。共創していくには、言語化して説明する能力が必要だと思います。
横田 確かにそうですよね。富士通デザインセンターでは、企業内のデザイン組織ももっと発信する必要があるという考えからデザインアドボケートという役割が誕生しています。
曖昧なものを受け入れる包容力を持つ
海老原 言語化の際には、高い精度で言語化したいと思うものですが、2〜3割くらいの、曖昧だけど周りに発信してみるようなことができるといいですよね。曖昧な考えだとしても、発信してみることで仲間が見つかったりすることがあります。
平山 組織で発信するとなると、途端に100点しか認めないとなっちゃいますよね。日本人のそんな真面目さと、一方で、さまざまなことを取り入れる包容力が政策立案や行政以外のサービス、製品開発にも必要なはずで、その両者を大事にするプロセスを、政策に取り入れることを進めています。
水口 僕らも企業の方もそうですが、ひとりの人間として何をやりたいか。一人の人という視点をもっと掘り下げることも大事だと思っています。
横田 かっちりしないといけないという空気を打破して、さまざまな要素を受け入れながら、みんなでつくり上げていく。そんな雰囲気や風潮が生まれるといいですね。
前編のまとめ
前編ではJAPAN+Dのみなさんに、その活動やデザインアプローチについてどう考えているか、また日本らしい政策デザインとは何かを伺いました。
政策づくりの現場にデザインアプローチを取り入れようと活動しているJAPAN+Dさんから「完璧でなくても良い、2,3割の時点でも良いから一人の人間として何をやりたいか、相手に伝わるように言語化することが重要」だと学びました。
おそらくこれは、これまでロジカルに偏りがちであった政策づくりの現場に、デザインアプローチを取り入れる過程で、省庁の他のメンバーやステークホルダーの理解を得ながら・巻き込みながら活動されてきたJAPAN+Dさんならではの言葉だと思います。この言葉は、私たちが取り組もうとしている社会課題×デザインアプローチにも通ずるもので、横田の8ステップのうち、「STEP3 共感」のアクションとして参考になりました。
そして、共感を生み出すために言語化するということは、日本らしさという意味で、言語化に苦手意識を持つ日本人の文化的特性から、意識して行う必要があると思いました。
様々な気づきがあった前編です。1:nの対談は初めてだったので、上手に回せていたでしょうか。後編では政策デザインのより具体的なプロセスを伺っていきます!