社会課題解決につながる日本らしい政策デザインとは
政策づくりにデザインアプローチを取り入れる「JAPAN+D」 後編
こんにちは、デザインアドボケートの横田奈々です。
前回から、政策づくりにデザインアプローチを取り入れているJAPAN+Dさんとディスカッションを行っています。前編では、政策づくりにデザインアプローチを取り入れることをメンバーのみなさんがどう思っているか、また、日本らしい政策デザインとは何かを伺いました。
(下記、前編記事です)
後編では、横田が考える「デザインアプローチの8つのステップ」を元に、政策デザインにおけるデザインアプローチで重要なことや、デザインした政策が実際に生活へ浸透していくにはどうしたらよいのか話していきます。
政策デザインにおけるデザインアプローチで重要なこと
横田 今、デザインアドボケートでは社会課題に対してこういったデザインアプローチで取り組めば、解決につながるんじゃないかという8つのステップを考えています。
横田 JAPAN+Dの5つのバリューズ「探索」「問い」「共創」「改善」「実装」と要素は似てますね!
水口 そうですね、似ていると思います。大事なのは、プロセスを踏むことによって、共感が高まるというのと熱意がついてくることだと思います。僕自身の経験ですが、(前編に出てきた)介護に関するプロジェクトで、現場の様々な話を100人以上聞いていく中で、自然と共感が生まれ、「これはどうにかしないといけない!」と熱量が高まってきます。人を動かす側の熱量、つまり政策を考える人の熱量がないと、周りもついて来ない。熱意がプロジェクトの原動力になると思います。
海老原 企業でも、サービスを作って自分が実際使うかって言われたら「使いません」みたいなことがあると思うんですけど、政策も同じで、その政策を自分の家族が本当に使いたいのかって考えられているかと言うと、多分不十分なところがまだあります。デザインはそれを解決する一つのアプローチでもあると思いますね。
横田 おっしゃる通りだと思います。デザインでいうところのプロトタイプで「あ、なんか微妙かも」ということを含めて気づきを得ることが大事ですよね。
海老原 例えば、経済産業省は補助金を作って施行してるのですが、我々職員が当事者として実際に補助金の申請をするわけではありません。そのため、どうしても申請される方々の気持ちを100%理解できないことがあります。これは申請の経験がある人が我々の中に入ってそのサービスをつくると解決し得る問題だと思います。
しかし、行政は人材の流動性が低いこともあります。そのため、サービスをつくるとき、本当のユーザーの気持ちに十分に寄り添えていない場合に、ユーザーとの間にギャップが起きてしまうんだと思います。
デザインアプローチの導入による変革と評価の課題
平山 例えば、特許庁の「拒絶理由通知書」を知っていますか?それをデザインアプローチで改善しました。デザインの手法を使って動画案内や、改善点を伝えるサイトを提供しています。それによって、申請件数が大幅に増えるわけではありませんが、受け手の感じ方や、行政への信頼度や温かみが生まれると感じています。それをどう評価するかは、私たちも悩んでいます。
横田 その悩み、私も同じです。企業の業務においても、他の職種の方がデザイナーと一緒に仕事をして、良い成果や顧客の満足度が上がったと感じても、それが財務価値として現れない場合、次の予算獲得には繋がらないんですよね…。私がいる組織では、デザインの価値を何とか財務価値として具体的に示そうという試みがありますが、数値化が難しく、それが大きなジレンマと感じています。
海老原 どう評価をするのかは確かに難しいですよね。僕はデザインアプローチの評価は時間軸と波及効果だと思っています。デザインアプローチは時間がかかるので短期での評価はどうしても難しいです。波及効果はオセロで例えると、一気に盤面を変えるのは難しいけれど、じわじわと有利な状況を作っていくのが重要になります。デザインアプローチを取り入れることはこれと同じで、マインドセットを早くから変えていくことで、次のプロジェクトや取り組みがスムーズになると感じています。
私たちの伴走支援のプロジェクトも、プロジェクトの成果だけでは評価が難しいけれど、参加した人が次にどう行動するか、その影響は大きいと思っています。
政策デザインのための教育コンテンツ
横田 最近YouTubeに政策デザインの教育コンテンツ動画を出されてましたよね!YouTubeの動画では産官学民の連携も触れていました。弊社のような企業が政策デザインでどう関わって良いか、具体的に教えてください。
水口 今、動画は6本公開していて、0章はオンボーディングで「このマインドセットで取り組んでください」といった内容を話しています。
まず、省庁や自治体の方にコンテンツを知ってもらうことが大切ですが、知ってもらうだけでは不十分で、実際に試してもらうため、宿題を付けています。他にも、コンテンツを上手く使ってもらえるように、フォローアップの研修も考えています。
水口 産官学民での連携に特別な要望はないですが、最初の探索のフェーズで「肩肘張らずに一緒に話しましょう」が一番大事だと思っています。省庁だと企業と対面でやり取りしてしまうことが多いですが、それよりも同じカウンターで横向きに話すイメージです。共創はプロセスが進んでしまうと後戻りが難しい。なので、日常的にリラックスした関係を築くこと、例えばスーツではなく普段着での会話などが大事だと僕自身は思います。
海老原 我々が堅く見えるせいでもあるんですけど、フラットな関係でお付き合いできるのがベストです。どんな大きな組織も、上まで進んで実行されないアイデアがあると思いますが、そのアイデアを外に広げることで新しいものが生まれるんじゃないですかね。それはもったいないのでそういったアイデアを、元に一緒に解決していければ面白いなと思います。
沼本 コミュニケーションの場面で、「個人的な話として聞いてもらえますか?」という時間を作るのも大事な気がします。そういった意識的な時間の作り方が、大きな違いを生むんじゃないかなと僕は思います。
デザインアプローチで産官学の壁を越えるために
平山 先日、ある大学の学生さんから政策デザインに興味があるので何かできないかと連絡をもらいました。ネット上でJAPAN+Dに対する意見は多々ありますが、具体的なアイデアを持ったフィードバックや一緒に取り組んでみるということが少ないのが現状です。なので、学生さん含め様々な方の視点や、彼らが持つ新しいアイデアを、実際の政策デザインに取り入れることのできる仕組みが必要なんじゃないかと考えています。
横田 発信やオープンにコラボレートできる状況、態度を見せるっていうところも、デザインアプローチによる革新の第一歩だと私も思います。
平山 行政や民間の枠を超え、デザインアプローチでは一緒に溶け込みながらものを作り上げる姿勢が大事。それぞれが持つ役割に応じて、協力していくことが求められるんじゃないかな。
水口 産官学じゃなくて、人人人みたいな。
海老原 だからこそ、ビジョンや目的を共有することが重要になってくるんでしょうね。多分、今までは立場に沿ってコメントすれば、とりあえずは良かったんだけど今は一個人としての参加や貢献が重要視されているかもしれません。
横田 JAPAN+Dの皆さんから、政策デザインにおけるデザインアプローチの有効性を学びました。最初は産官の立場を意識して参加しましたが、個人として、より良い社会を目指して行動したいと強く感じました。今後の取り組みを楽しみにしています。ありがとうございました。
まとめ
気づき1:社会における役割は分かれているが、我々が課題に向き合う時は一民(たみ)である意識も持つ
これまで8回にわたり産官学民(産:富士通株式会社デザインセンター長の宇田さん、民:活動家の渡邊さん、学:研究者の粕谷教授、官:JAPAN+Dのみなさん)にインタビューすることを意識して企画をしてきました。
しかし、今回の取材の最後、水口さんの「産官学じゃなくて人人人」という言葉に私はハッとさせられました。社会課題があまり解決されていかない日本の現状を見るに、社会的な役割も重要ですが、取り組む際にその役割から意識が脱せれていないことが解決の進まない一要因になってしまっているのではと自らの企画を省みつつ思いました。
気づき2:デザインアプローチの評価は時間がかかるが波及効果もある
JAPAN+Dさんを取材するにあたり、省内にデザインアプローチを普及させるためには評価が必要、ではその評価はどのようにやっているんだろうと気になり質問をしました。これまで私はデザインアプローチの効果をどのように数字にするのかを気にしていましたが、海老原さんのおっしゃっていた「波及効果」もあることに気づきました。
デザイナーと一緒にプロジェクトを行った人が、その後の活動にデザインアプローチを活用できるようになる。それを広めていくための仕組みづくりも重要そうです。
気づき3:相手に伝わるような言語化やコミュニケーションできる環境をつくる
前編では、「完璧でなくても良い、2,3割の時点でも良いから1人の人間として何をやりたいか、相手に伝わるように言語化することが重要」ということを学びました。これに加えて、後編では平山さんの「信用や温かみを得る」や沼本さんの「あえて個人的な話として聞いてもらう時間を設けてみる」というのもデザインアプローチならではのことだと思いました。
気づき1のその先の共創をスタートさせるには、難しい業界用語は使わず、伝わる言葉選びや安心してコミュニケーションできる関係性の構築も重要だと気が付きました。横田の8つのステップでいうところの、「ステップ3:共感」から「ステップ4:課題定義」に移る際にこういったコミュニケーション環境になっている必要がありそうです。
さいごに
1年間のデザインアドボケートのプロジェクト終了に伴い、全8回の取材企画も本記事が最後となります。社会の様々な事業に携わるインハウスデザイナーとして、社会課題に取り組む方に直接取材させていただき、多くのことを気づき学ばせていただきました。改めて取材にご協力くださった方々、読んでくださった皆様に感謝申し上げます。
私横田は社会課題の解決に貢献できるよう今後もデザイナーとして頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします!