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立場を越える「問い」と共創への「余白」が、社会課題を解いていく

環境破壊、少子高齢化、経済格差、資源の枯渇。
今、私たちが直面する課題の多くは複雑で、そう簡単には解決できません。

こうした課題を解くために、企業、行政、NPO、研究機関など、様々な組織がそれぞれ努力を重ねています。しかし、一部の組織や意識の高い人だけが頑張っても、社会全体の問題は解決されないもの。例えば、誰かがCO2を削減しても誰かが出し続けていたら気候変動は止まりません。様々な組織や個人を含め、社会が一体となって解決に向かうためには、どんなアプローチが必要なのでしょう?

そのヒントを探るため、カルチャーデザインファームKESIKIの石川俊祐さん、イノベーションエコシステムのデザインを専門とするリ・パブリック共同代表 市川文子さん、富士通デザインセンター長 宇田哲也と、異なる立場から社会課題に向き合う3名にお話を伺いました。


動画はこちらからご覧ください。



問うことより、解を出すことを急いでしまう日本人

ーー 社会課題を解決したいという気持ちを持っている人は多いと思います。企業の意識も変わってきているようです。それなのになぜ、課題解決はなかなか進まないんでしょうか?

宇田:特に日本における根本的な課題は、「分断」と「技術思考」だと思っています。企業、行政、NPO、市民などいろんな組織や人々がそれぞれの立場で動いていて連携が十分に取れていません。さらには、その組織内も縦割りで分断されてしまっている「サイロ化」が起こっています。

国も企業も、大きくなるにつれて組織が分かれるのは必然。ですが、分断が進んだ状態だと、各組織が持つ既存の技術や施策をベースに課題解決を考えてしまう。そうすると、横の連携ができずに、大きな課題に対して本質的な解決法を考えることができなくなってしまうんじゃないかと思います。


市川:特に、日頃からソリューションの提供を期待されているテクノロジーカンパニーは、つい課題解決を急いでしまうように思います。先日ビジョンデザインのワークショップをご一緒したみなさんも、最初から現状の課題の解決方法を考えてしまっていて、「いつもの癖が」と苦笑いしていらっしゃいました。
 
しかしこれだけ外的環境が変わると、そもそもどんな課題に取り組むべきなのか、改めて考え直す必要がある。本質的な問いを立てるためにじっくりと腰を据える必要があります。
「そもそも」の本質に立ち返る問い直しがないと、解決も短絡的なものになってしまいます。

石川:そうですよね。その根底にある原因は、日本の教育だと思っています。私たちは、自ら問いを立てるよりも、与えられた課題に対して正しい解を出すことを重視した教育を受けてきました
 
僕のバックグラウンドであるデザイナーもその一例です。日本のデザイナーは素晴らしいアウトプットを生み出すクラフトマンシップは鍛えられてきましたが、「そもそもつくるべきなのか」と問う力は求められてこなかった。一方で、私が留学していたロンドン芸術大学内のセントラル・セント・マーチンズでは、答えのない課題に対して自分がどう問いを立てるかを求められました。
 
課題をそのまま解決しようとするのではなく、まず問いを立てて、それに対してみんなで取り組むというステップが必要だと思っています。


費用対効果から離れると、問いが生まれる

宇田:先日、富士通デザインセンターが主導して、そもそも私たちが解くべき問いを考える“advocate(アドボケート)”という部署を横断した役割をつくったんです。
 
アドボケートの仕事は、富士通がユーザーと共に目指している世界を社会に発信していくこと。提供側からソリューションを売り込む役割ではなく、むしろユーザーや生活者側にぴったり寄り添い、必要ならばユーザーや生活者側に立って「本当に困っていることは何なのか?」と問う。問い続けることでユーザーや生活者に共感し、共感するからこそ見えてくることを形や文章などを使って具現化していきます。
 
企業の中でこのような役割を果たしている部署は少ないと思いますが、企業がユーザーや生活者との距離を縮めて、より良い社会を作っていくためには必要な役割だと考えています。

市川:組織が縦割りになりやすい中、横串を通す部署や役割がますます重要になってきていますよね。最近は「サステナブル推進室」を設置する企業が増えていますが、advocateと同じように、部署を越えて、問いを立てる可能性を持っていると考えています。実際、とある企業が部署の名前に「共創」の二文字を入れたら、それだけで部署を横断して活動するようになったそうです。
 
ただ、ほとんどの「サステナブル推進室」は、各部署に働きかけると言うよりは、いまある部署からデータを集めて社外に発表するという役目に奔走する結果になってしまっていて、もったいないんですよね。


ーー 表面的にしか活動できていないということですね。それは、なぜでしょう。

石川:多くの企業が利益だけを優先してきたからじゃないですかね。人類学者の友人に言わせると、経済活動は人間の活動の一部でしかないのに人間を”生産者”と”消費者”に二分して考えることに違和感があるんだそうです。

企業の捉える課題は、どうしても経済性が最優先になってしまう。その考え方自体をシフトしなければならない。そうすることで、本当に考えるべき課題を問う人が増えてくるんじゃないかと思います。


アクションにつながる問いは、自分ごと化から

ーー 社会課題の解決を前に進める「問い」とは、どんなものなんでしょう?

石川:僕は、どんなアクションを起こしたら良いか誰もが考えられる問いだと思います。「少子高齢化をどう変えられるか」といった抽象度が高い課題のままだと、100人いたら100人が全くばらばらなスタート地点から無謀な山に登ろうとする状況が生まれてしまう。

そうではなく、企業向けの問い、行政向けの問い、個人向けの問いと、立場に応じたちょうどいい粒度の問いを立てることが大切です。そうすることで、同じスタート地点からそれぞれの強みを生かした共創が生まれ、解決を加速させることができると思っています。


宇田:大きな問いを分解するときには、変化を起こす余地のある“変数”の部分に目を向けることが大事だと思います。

たとえば、戦争や国際政治の動きなど、自分たちではどうしても動かせない“定数”の課題を分解しようすると、苦しいし時間の浪費になってしまう。解きやすい課題に取り組むという意味ではなく、問い直す対象を見つける精度を高められると良いのかなと。


市川:知見のある人が問いを分解するのも必要です。一方で、他人から与えられた問いではなかなか人は動かない。大事なのは、一人ひとりが問いを立てる力を持つこと。そのためには、いきなり社会課題を提示するのではなく、個人の未来への思いや願いを表出させる仕組みが必要だと思っています。
 
例えば電力。より地球環境に負荷の低い電力会社を選びたいと思っていても、まずはコストの制約からそうではないものを選ぶことがほとんどでしょう。ただ消費者として選べないからと言って、一市民としてそういう思いがない訳ではない。もし、その人が企業や行政に自分の思いを共有する場があったら、その思いを汲み取って、サステナブルな電力への補助を設けるなどといったサポートをしてくれるかもしれませんよね。

個人の思いや違和感を共有する「場」があると、等身大の問いが生まれやすいんじゃないかと思います。

石川良い問いは、立場を越えて人と人が共に同じ課題を解決する橋渡しになるんですよね。大きな問いを分解することで、企業や行政などの組織はそれぞれの強みを生かした解決やアクションにつなげることができる。

一方で、個々人が自ら思いをぶつけ、等身大の問いを生み出す場づくりをすることで、市民が課題解決に参画できる。こういった共創が生まれることで、課題解決のスピードは格段に上がると思います。

 

参加の「余白」と個人の「熱量」が良い共創へつながる鍵

ーー そのような共創を加速するためには、どんなアプローチが考えられますか?。

市川参加を促す「余白づくり」だと思います。一例として、台湾のコンサルティング会社Plan bの都市の狭小空間をパブリックスペースに変身させる「ParkUp」というプロジェクトがあります。

公園は無条件に市民の憩いの場だと思われがちですが、整備が必要ですし、維持運営費がかかります。また設置した遊具によって利用する対象が限られてしまうという側面も持っています。

そこでPlan bは用途の決まった遊具を置くのではなく、シンプルなポールでできたモジュールを作り、それらを組み合わせることで近隣住民が自由に使い方を考えられるようにしたんです。すると公園に訪れる人が、その柱をブランコとして使ったり布団を干したりと自由に使うようになり、公園がにぎわい課題の解決に繋がった。

あえて使い方を規定しないからこそ、市民の参与が促され、それによって社会課題の解決につながった良い例だと思います。

宇田:富士通も「余白」を大事にした社外の方々との共創活動を行っています。例えば、富士通が参画している業界団体「JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)」では、所属企業のインハウスデザイナーを巻き込んで、社会課題解決のエコシステムをつくるプロジェクトにチャレンジしています。

同業他社のインハウスデザイナーが、企業の壁を超えて協力し合い、「解くべき課題」の定義から解決策の仮説検証までの仕組みそのものをプロトタイプしている新しい取り組みです。


石川:面白い社会実験ですね。抽象度の高い問いがあり、それをそれぞれが自分たちなりに解像度を上げて考えられると、自走が始まる。その余白をどうデザインできるかが、コラボレーションにおいてとても大事だなって、日々思うんですよね。


ーー その上で共創の質を上げるためには、どうしたら良いでしょうか?

市川:一番は、共創する人々の多様性だと思っています。そのためには、社会構造上マイノリティとされてしまっている人を、エンパワーメントすることも必要になってきます。マイノリティの人たちには、社会構造的に力を持った人が知らない知見や経験がたくさんある。彼ら、彼女らがエンパワーメントされて、初めて社会課題の解決が前に進むと思います。誰に働きかけるものなのか、誰を置いて行っていないかという視点は、共創のヒントだと思いますね。

宇田:私は、個人の「熱量」を大切にすることだと思ってます。ソフトウェアの業界には、オープンソース(無償で一般公開されているソースコード)をより良くするためのコミュニティがたくさんあります。
 
例えば、OSの一種である「Linux」のオープンソースプロジェクトには、2005年以来1300社以上13,500人を超えるエンジニアが、自主的にコードの開発や保守に参加しているんですよ。そこでは、ユーザーの「熱量」が大切にされ、それゆえにどんどんコミュニティが活性化していく構造になっています。
 
そこに金銭や主従の関係はありません。自分たちが使う環境だから、自分たちで協力してより良くしていく。その「熱量」は社会課題の解決でも絶対にキーになってくると思っています。

石川:これまでの事業活動は、個人の「技術」に焦点が当たっていました。もし、個人の「熱量」とも紐付いていけば、OSコミュニティのような良い共創の場が生まれるかもしれませんね。そのような場をどうやったら増やせるか。それがまさに、今後私たちが取り組むべき問いなんだなと思いました。


市川:そうですね。共創の場のような「はじまりのデザイン」が、社会課題の解決を進めていくのだと思います。これからは、技術的にアウトプットができる人だけでなく、ファシリテートできる人が求められていくんだろうなと。海外を見ていると、たとえばデザイナーもファシリテートの役割を担う人が増えてきていますよね。


宇田:私たち富士通デザインセンターとしても、デザイナーひとりひとりが社会の課題に対して主体的に関わり、旗振り役を担っていこうという動きがあります。このメディアプロジェクト〈DESIGN SPECTACLES〉も、多くの人が参加してみようと思えるようなコミュニティの入り口にしていきたいのです。
 
企業へ属しているデザイナーや社会課題に取り組もうとしている個人など、一人ひとりに眠っている「熱量」をすくい上げ、組織や立場を越えてみんなが協力して社会課題に取り組む機運を作っていきたいと思っています。

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